
保育園の就業規則、作成・変更の手順と職員への周知のしかた
職員から「育休のあと、時短ってどこまで取れるんでしたっけ」と聞かれて、事務室の棚から就業規則のファイルを引っぱり出す。開いてみると、最後の改定日は数年前。読み進めるうちに、いま園で実際にやっている運用と、書いてあることが少しずつずれていることに気づく——。
そんな夕方、ありませんか。
就業規則は、作ったあとに触る機会が少ない書類です。それでいて、法律は毎年のように変わり、園の勤務の形も少しずつ変わっていきます。気づいたときには「現場の実態」と「紙に書いてあること」が離れている。これは、園がだらしないからではなく、更新のきっかけが仕組みになっていないだけのことがほとんどです。
大丈夫です。全部を作り直す必要はありません。今日は、いまある規則を開くところから、一緒に順番に見ていきましょう。
結論:就業規則の変更でやることは、大きく4つだけです。①直す案をつくる → ②職員の過半数代表者の意見を聴く(意見書をもらう) → ③労働基準監督署へ届け出る → ④職員に周知する。とくに④の周知は、うっかり抜けると規則そのものの効力が認められないことがある大事な一歩です。まずは、いまの規則の表紙を開いて最終改定日を見るところからで十分です。
順番さえ覚えてしまえば、あとは毎回同じ道を通るだけになります。
何が起きているか|「あるけれど、更新が止まっている」
多くの園に、就業規則はすでにあります。それでも困りごとが起きるのは、だいたい次のどれかです。
- 法改正に追いついていない(育児・介護休業まわりは、ここ数年で何度も変わっています)
- 実際の運用と書いてあることが違う(早番の開始時刻、行事の日の振替、休憩の取り方など)
- パート・非常勤の扱いが書かれていない(正職員向けの本則しかなく、実態と合わない)
- 直したけれど、届出と周知をしていない(案の段階で止まっている)
- 職員が中身を見られない(金庫や園長の机の引き出しに入ったまま)
とくに最後のふたつは、事務が手を入れやすいところです。逆に言えば、ここが抜けていると、せっかく直した規則が「園の中で効いていない」状態になりかねません。
なお、就業規則と混同しやすいのが運営規程です。運営規程は園の運営(定員・職員配置・保育時間・利用料など)を定めて保護者や自治体に示すもの、就業規則は職員の労働条件を定めるもの。監査で見られる場面も違います。似た名前ですが、別の書類として管理してください。
まず確認|うちの園に、作成・届出の義務があるか
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務づけています(労基法89条)。ここで迷いやすいのが数え方です。
- 数えるのは「園ごと」(事業場単位)。複数の園を運営する法人でも、原則は園ごとに数えます。
- パート・非常勤も含めて数えます。週2日勤務の方でも、常態として雇っていれば頭数に入ります。
- 数えないのは、派遣元から来ている派遣職員(派遣元で数えます)など、限られた場合です。
保育園は、正職員に加えて短時間のパート職員、給食・用務の職員まで含めると、10人を超える園が多いはずです。「うちは小規模だから関係ない」と思っていたら対象だった、というのはよくある話なので、一度、実際の在籍者名簿で数えてみてください。
10人未満の園でも、作っておくことにはちゃんと意味があります。休みや残業の扱いが文章で決まっていれば、口約束のずれから起きるトラブルが減りますし、助成金の申請で提出を求められる場面もあります。
就業規則に「必ず書くこと」
必ず書かなければならない項目(絶対的必要記載事項)は、次の3つの固まりです。
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制で勤務させる場合は就業時転換に関すること
- 賃金の決定・計算・支払の方法、締切と支払の時期、昇給に関すること
- 退職に関すること(解雇の事由を含む)
そのうえで、園に定めがあるなら書く項目(相対的必要記載事項)として、退職手当、賞与・臨時の賃金、食費や制服などの職員負担、安全衛生、災害補償、表彰・制裁などがあります。
もうひとつ、見落としやすい大事な点を。賃金規程や育児介護休業規程を別冊に分けている場合、それらも就業規則の一部です。別冊だけを直したときも、届出と周知が必要になります。「本則は触っていないから」と手続きを飛ばしてしまわないよう、気をつけたいところです。
手順を小さく分けます|変更の4ステップ

1. いまの規則を出して、最終改定日を見る
最初にやるのは、現物を机に出すことです。表紙か末尾に、制定日と改定日の履歴が書かれているはずです。ここが数年前で止まっているなら、次の項目を確認していきます。もし履歴のページ自体がなければ、今回の改定でつけ足しておきましょう。あとから見返す人が必ず助かります。
2. 直すところを洗い出す
一度に全部は見きれないので、確認する場所を絞るのがコツです。2026年時点で、まず見ておきたいのはこのあたりです。
- 育児・介護休業の規程:ここ数年で改正が続いています。2025年4月からは「子の看護休暇」が子の看護等休暇に変わり、対象となる子の年齢や取得できる理由が広がりました。所定外労働の制限(残業の免除)を求められる対象も広がっています。さらに2025年10月からは、3歳から小学校就学前の子を育てる職員に向けて、柔軟な働き方を実現するための措置(始業時刻の変更、テレワーク、短時間勤務、新たな休暇の付与などから選んで実施する)と、本人への意向確認が事業主の義務になりました。規程が改正前のままなら、ここが最優先です。
- 定年後の再雇用:65歳までの雇用確保措置について、以前あった「労使協定で対象者を選ぶ」経過措置は2025年3月末で終わっています。古い基準が規程に残っていないか確認します。
- ハラスメント関係:2025年に成立した改正で、カスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為)への対策が事業主の義務として加わりました。園では保護者対応がこれにあたる場面があります。施行の時期や求められる措置の詳細は、厚生労働省の案内で最新の情報を確認してください。
- 実態とのずれ:早番・遅番の時刻、休憩の取り方、行事のときの休日振替、時間外の扱い。ここは現場の主任や保育者に聞くのがいちばん早いです。
制度は年ごとに動きます。厚生労働省や都道府県労働局のモデル就業規則は改正を反映して更新されていくので、見比べる下敷きとして手元に置いておくと確認が楽になります。
3. 案をつくり、過半数代表者の意見を聴く
案ができたら、職員の過半数を代表する人の意見を聴きます(労基法90条)。過半数で組織する労働組合があればその組合、なければ過半数代表者です。ここで気をつけたいのは、代表者の選び方です。
- 管理監督者ではない人であること(園長・施設長は原則なれません)
- 投票、挙手、職員の話し合いなど、民主的な方法で選ぶこと
- 園長が「じゃあ主任さんお願い」と指名するのは不適切です
選び方の記録(回覧して信任を得た用紙、集計メモなど)を1枚残しておくと、あとで説明できて安心です。
そして、意外と知られていないのがこちら。求められているのは「意見を聴くこと」であって、同意をもらうことではありません。反対意見が書かれた意見書でも、届出そのものは受け付けられます。とはいえ、反対が出るということは説明が足りていないサインでもあるので、届出を急ぐ前に一度話す時間を取れるといいですね。
4. 労働基準監督署へ届け出る
そろえる書類は、変更後の就業規則(新旧対照表を添えると親切です)と意見書、そして就業規則(変更)届の3点が基本です。所轄の労働基準監督署へ提出します。窓口へ持参するほか、電子申請も使えます。
複数の園を持つ法人で、すべての園の規則が同じ内容なら、本社で一括して届け出られる仕組みもあります。園ごとに窓口へ行く手間が減るので、該当しそうなら管轄の監督署に相談してみてください。
控えに受付印をもらったら、原本と一緒に保管します。監査や指導の場面で「最新版はこれです」と示せる形にしておくと、探し物の時間が減ります。
5. 職員に周知する(ここがいちばん大事)
届け出て終わり、ではありません。就業規則は、職員に周知して初めてきちんと効力を持つとされています。裁判でも、周知されていない規則の効力が認められなかった例があります。方法は法令で次のように定められています(労基法106条ほか)。
- 常時、見やすい場所に掲示するか、備え付ける(職員室の書棚に置き、場所を全員に伝える)
- 書面を交付する(全職員に配る)
- 電子データで、職員がいつでも確認できるようにする(園の共有フォルダやICTシステムに置き、見方を伝える)
保育園の場合、保育室にいる職員が事務室まで見に来られるかが現実的な分かれ目です。棚の奥にしまうのではなく、職員室の手に取れる場所に1冊、共有フォルダに1つ。この二重にしておくと、早番・遅番でシフトがすれ違う職員にも届きます。
そして、変わった部分だけをA4で1枚にまとめて配るのがおすすめです。分厚い規則を渡されても読まれません。「今回変わったのはこの3か所です」と伝えたほうが、はるかによく届きます。職員会議で5分もらって口頭でも触れ、その日付を記録に残しておけば、周知した跡もきちんと残ります。
職員に不利になる変更のときだけ、少していねいに
賃金を下げる、手当をなくす、休暇を減らす——こうした職員に不利になる変更は、少し慎重に進めます。労働契約法では、職員の合意なく不利益に変更することは原則できないとされています。例外的に、変更後の規則を周知していて、変更の内容に合理性があると認められる場合に限って効力を持ちます。
合理性は、不利益の程度、変更の必要性、代わりの措置があるか、職員に十分説明したか、といった事情から総合的に判断されます。判断が難しい領域なので、賃金や手当に手を入れるときは、社会保険労務士や労働基準監督署の相談窓口に一度確認するのが確実です。ここは事務ひとりで抱え込まなくていいところです。
影響|整えておくと、どこが楽になるか
- 職員から聞かれたときに即答できる:「規則の第◯条にこう書いてあります」と示せます。
- 監査・指導のときに慌てない:最新版と受付印の控えを、その場で出せます。
- 採用のときに説明しやすい:労働条件通知書との食い違いが減ります。
- トラブルが起きにくくなる:休みや残業の扱いが、人によって変わらなくなります。
- 園長・主任の判断が減る:その都度の相談が減り、事務の差し込み仕事も減ります。
賃金台帳や勤怠の整え方は 賃金台帳に必要な項目|保育園の給与まわりを整える にまとめています。時間外の扱いを見直すときは 保育園の36協定と残業時間の管理の基本 もあわせてどうぞ。
明日やること(15分でできる分だけ)
一度に全部は無理です。明日は、このうちどれか1つで大丈夫です。
- 就業規則の現物を棚から出して、最終改定日を見る
- 在籍者名簿でパートを含めた人数を数える(10人以上かどうかの確認)
- 育児介護休業規程だけ開いて、看護休暇の条文を見る(改正が反映されているか)
- いま職員が就業規則をどこで見られるか、実際に確かめてみる(見られなければ、置き場所を1か所決める)
このどれか1つが終われば、今日はもう十分に前へ進んでいます。
確認チェックリスト
全部にチェックが入る園は多くありません。最低ラインは①最新版がどれか分かる②届出の控えがある③職員が見られる場所にあるの3つです。ここが押さえられていれば、まず形になっています。
- 【最低ライン】いまの最新版がどれか、事務が即答できるか
- 制定日・改定日の履歴が、規則の中に書かれているか
- パート・非常勤を含めた在籍人数を数えたことがあるか(10人以上か)
- 賃金規程・育児介護休業規程など、別冊の規程も一緒に管理できているか
- 育児・介護休業まわりが、2025年の改正内容を反映しているか
- パート・有期職員に適用される規程があるか(本則の適用範囲が書いてあるか)
- 過半数代表者を、民主的な方法で選んだ記録が残っているか
- 【最低ライン】労働基準監督署の受付印がある控えを保管しているか
- 【最低ライン】職員がいつでも見られる場所(棚・共有フォルダ)にあるか
- 変更したとき、変更点をまとめた紙を職員に配ったか
- 周知した日と方法が、記録に残っているか
- 労働条件通知書・雇用契約書の内容と食い違っていないか
なお、この記事で整理しているのは園の中で進める手順の型です。個別の条文の書き方や、不利益変更にあたるかどうかの判断は、園の実情によって変わります。最終的な確認は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士など、専門の窓口にご相談ください。

就業規則を直す仕事は、直したその日に誰かから感謝されるものではありません。でも、職員が「休みってどうなってるんだろう」と迷ったとき、開けば答えが書いてある本が職員室にある。それは、園で働く人の安心を静かに支えている仕事です。
一度に全部を新しくしなくて大丈夫。今年は育児休業のところだけ、来年は勤務時間のところだけ。そうやって少しずつ現実に近づけていけば、規則はちゃんと園のものになっていきます。まずは棚から一冊、出してみるところから。
よければ、こちらも
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