夏の終わりの夕方、事務室で園の時給一覧を広げ、最低賃金の改定額と見比べながら考えている保育園の事務担当者

最低賃金の改定に備える|保育園の時給・手当を見直す手順

夏の終わりが近づくと、ニュースで「最低賃金が今年は◯◯円に」と流れはじめます。それを聞いた瞬間、頭に浮かぶのは園のパートさんの顔と、机の引き出しにしまってある時給一覧ではないでしょうか。誰が対象になるのか。いつから直すのか。給与ソフトのどこをさわるのか。しかも園の収入がその分すぐ増えるわけではないので、考えることが二重になります。

正直なところ、これは「ちょっと数字を書き換えるだけ」の仕事に見えて、実際は確認する場所がいくつもある仕事です。だからこそ、順番を決めておくと落ち着いて進められます。今日は、改定額が出てから園で何をするのかを、一緒に前から順に並べていきましょう。

結論:最低賃金の改定への備えは、次の5つの順番で進めると迷いません。①いつ・いくらになるかを自県の情報で確認する → ②下回る人を洗い出す(時給者だけでなく月給者も時間に換算して見る) → ③新しい時給を決める(上の層との差もあわせて見る) → ④書類を直す(賃金規程・労働条件通知書・賃金台帳・給与ソフト) → ⑤発効日をまたぐ月の給与計算を確認する。

とくに見落としやすいのが②の「月給者の時間換算」と、⑤の「締め日が発効日をまたぐ月」です。ここだけ先に頭に入れておけば、あとは順番になぞるだけになります。

一度に全部やらなくて大丈夫です。①と②は改定額が出る前でも下ごしらえできます。まずはそこから見ていきましょう。

何が起きているか

最低賃金は、都道府県ごとに決まっている「これより下では働いてもらえない」時間あたりの下限額です(地域別最低賃金)。パートでも正職員でも、雇用の形にかかわらず適用されます。そして毎年見直しがあり、秋ごろに新しい額が効きはじめます。

保育園でこの見直しがややこしくなるのは、次のような事情が重なるからです。

ひとつめは、対象になる人が事務室から見えにくいこと。 保育士のパートさんだけでなく、調理員、用務、送迎の運転手、延長保育の時間だけ入るスタッフ、短時間の補助員など、雇用の形も勤務時間もばらばらな人が園にはいます。時給一覧が一枚にまとまっていないと、誰が下回るのかがすぐに出てきません。

ふたつめは、月給の人も対象だということ。 「うちの正職員は月給だから関係ない」と思いがちですが、月給を時間あたりに換算したときに下限を下回っていないかを見る必要があります。ここは案外、盲点になりやすいところです。

みっつめは、園の収入が同じタイミングで増えるわけではないこと。 公定価格や処遇改善等加算は国や自治体の仕組みで動くので、最低賃金が上がったからといって、その分が自動的に入ってくるわけではありません。人件費の見通しを立て直す必要があり、園長や法人と相談する時間もいります。

だから、この仕事は「気づいた人が慌ててやる」形になりやすいのです。でも、やることの中身自体は決まっています。順番にしていけば、必ず終わります。

いつ、何が決まるのか

大まかな流れは、毎年ほぼ同じです。

  1. 7月ごろ:国の審議会(中央最低賃金審議会)が、引上げ額の「目安」を示します。ニュースになるのはたいていこのタイミングです。
  2. 8月ごろ:都道府県ごとの審議会が、その目安を参考に地域の事情もふまえて答申します。目安どおりとは限らず、県によって上下します。
  3. その後、都道府県労働局長が決定・公示:ここで自県の正式な額と発効日が確定します。
  4. 10月ごろから順次発効:発効日は都道府県によって違います。近年は引上げ幅が大きく、10月より後ろの日付になる県もあります。

ここで大事なのは、ニュースの全国平均の数字ではなく、自分の県の額と発効日で動くということです。参考までに、直近で確定している令和7年度(2025年度)の改定では、全国加重平均が1,121円とされています(厚生労働省の公表による)。ただしこれはあくまで全国を平均した数字で、実際の額は県ごとに異なります。必ず自県の労働局のお知らせで、金額と発効日の両方を確認してください。

確認先は、お住まいの都道府県労働局のサイト、または厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」のページが確実です。園にポスターやリーフレットが届くこともありますが、届くのを待たずに、答申が出た時点で見にいっておくと余裕が持てます。

手順を小さく分けます

① 自県の金額と発効日をメモする

まず、この2つだけを紙かカレンダーに書きます。「新しい額」と「効きはじめる日」。この2つが決まれば、あとの作業はすべてここから逆算できます。発効日はカレンダーに入れておき、その前の給与締め日にも印をつけておくと安心です。

② 下回る人を洗い出す

園の全職員を一覧にして、時間あたりの賃金を出します。

時給の人は、そのまま時給の数字で比べます。ただし、ここで注意したいのが「最低賃金の計算に入れられない賃金がある」ことです。次のものは、比べるときの金額から外します。

いちばん引っかかりやすいのは最後の3つです。「通勤手当を入れれば足りている」は通りません。逆に、毎月決まった額で支払っている基本給や職務手当などは、計算に含めて考えます。

月給の人は、時間に換算します。計算はこうです。

1か月あたりの平均所定労働時間 =(365日 − 年間所定休日日数)× 1日の所定労働時間 ÷ 12

時間あたりの賃金 =(月額の賃金 − 上に挙げた除外する賃金)÷ 1か月あたりの平均所定労働時間

たとえば、1日8時間勤務・年間所定休日110日の園で考えてみます。

この職員の時間あたりの賃金は1,000円です。自県の最低賃金がこれを上回っていれば、月給の人であっても見直しが必要になります。年間休日が少ない園ほど分母の時間が増えるので、思っていたより低い数字が出ることがあります。驚くような結果が出ても、それは園が手を抜いていたということではありません。制度側が毎年上がっていく仕組みなので、追いかけて直していけば大丈夫です。

③ 新しい時給を決める

下回る人を最低賃金以上に引き上げるのが最低限のラインです。そのうえで、もうひとつだけ見ておきたいことがあります。すぐ上の層との差です。

たとえば、新しく入ったパートさんの時給を1,120円に上げたとき、勤続8年のパートさんが1,130円のままだと、差が10円になります。長く働いてくれている人ほど、この差の縮まり方に気づきます。声に出して言わない人もいます。

すべてを一度に直すのは、園の予算からいって難しいことが多いと思います。それでも、「差が詰まった人が何人いるか」だけは先に把握しておくと、園長や法人に相談するときの材料になりますし、聞かれたときに黙り込まずに済みます。全部を今年で解決しなくても、状況を見えるようにしておくことに意味があります。

④ 書類を直す

金額が決まったら、直す先は次のとおりです。

⑤ 発効日をまたぐ月の給与計算を確認する

ここが最後の関門です。給与の締め日が月末でない園は、発効日をまたぐ月だけ、計算がふたつに分かれます。

給与計算の1か月分を表す帯が発効日の縦線で左右に分かれ、左側が旧時給、右側が新時給になっていることを示した図
締め日が発効日をまたぐ月は、1回の給与計算の中で時給がふたつに分かれます。

たとえば、締め日が毎月20日で、自県の発効日が10月1日だったとします。この場合、10月20日締めの給与は次のようになります。

給与ソフトによっては、単価の適用開始日を入れておけば自動で分けてくれるものもあります。ただ、自動でやってくれる前提で通さず、その月だけは手計算で1人分だけ検算しておくと安心です。ここを間違えると、後から差額の精算とお詫びが必要になり、そのほうが手間になります。

締め日から支給日までの全体の流れは 保育園の勤怠から給与計算まで、締め日から支給日までの流れ に整理してあります。

保育園ならではの、つまずきやすいところ

処遇改善等加算との関係は、自治体に確認する。 処遇改善等加算Ⅰの賃金改善は、基準となる年度からどれだけ改善したかで見ます。このとき、最低賃金の改定にともなう引上げ分をどう扱うかは、国や自治体の通知で定められています。園の判断で決めず、自治体の担当課に「最低賃金改定分の取扱い」を一度確認しておくのが確実です。加算そのものの整理は 処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの違いを整理する手順、計画書と実績報告は 処遇改善の賃金改善計画書・実績報告書を無理なくまとめる手順 にまとめてあります。

勤務時間の希望は、早めに聞いておく。 時給が上がると、同じシフトで働いていても年間の収入は増えます。扶養の範囲を意識して働いている職員にとっては、勤務時間を調整したいという話になることがあります。この「年収の壁」と呼ばれる基準は近年見直しが続いていて、金額も条件も変わってきています。園から「◯◯万円までなら大丈夫です」と言い切らないほうが安全です。最新の基準はご本人と確認していただくこととして、園としては「時給が上がるので、勤務時間の希望があれば早めに教えてください」と伝えるにとどめるのが無難です。社会保険の加入判断そのものは 保育園のパート職員、社会保険はどこから加入?判断の順番を整理 が近い話です。

人件費の見通しは、数字にしてから相談する。 「今年は上げないといけません」だけでは話が進みません。引き上げる対象人数 × 引上げ額 × 見込み年間勤務時間で、年間の増加額をざっくり出しておくと、園長や法人との相談が具体的になります。細かい精度より、桁が見えることが大事です。

助成金が使える場合がある。 事業場内の最低賃金を引き上げ、あわせて設備投資などを行った中小企業・小規模事業者向けに、国の「業務改善助成金」という制度があります。対象になるかどうかは事業者の要件や受付期間によって変わり、年度ごとに内容も見直されます。該当しそうなら、自県の労働局に問い合わせて確認してください。使えたら助かる、くらいの気持ちで、期待しすぎずに見ておくのがちょうどいいと思います。

確認チェックリスト

まず今日やること(改定額が出る前でもできます)

答申・公示が出たら

金額を決めたら

間に合わないときの最短対応

金額・要件・発効日は、年度や都道府県によって変わります。この記事で整理しているのは「迷わないための順番」であって、具体的な数字ではありません。実際の額と日付は、必ず自県の労働局や厚生労働省の公表内容でご確認ください。

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更新し終えた時給一覧を前に、ほっと肩の力を抜いてほほえむ保育園の事務担当者
一覧を一枚作れたら、来年の見直しはもっと軽くなります。

最低賃金の改定は、園が決めたことではないのに、直す作業だけは園にやってきます。少し理不尽に感じる年もあると思います。それでも、この見直しは職員一人ひとりの手取りに直接つながる仕事です。ここを正しく通しておくから、みんなが安心して次の年も働き続けられます。

今日は、職員の時給を一枚の紙に並べてみるだけで十分です。誰が対象になるかが見えた時点で、いちばん重たいところは越えています。あとは、決まった額を待って、順番に当てはめていくだけです。

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