
保育園のかみつき・ひっかき|保護者への伝え方と記録の残し方
保育室から「かみつきがありました」と報告が上がってくる。跡を見に行くと、ちいさな腕に赤い歯型が二列。時計を見ると、もうすぐお迎えの時間です。
頭の中を、いくつもの言葉がぐるぐる回ります。なんて言おう。どこまで話そう。相手の子の名前、聞かれたらどうしよう。この前も同じ組み合わせだったな、と気づいてしまうと、なおさら足が重くなる。園の事務をしていると、保育士から相談を受ける側になったり、あとで電話を受ける側になったりもしますよね。
結論:かみつき・ひっかきの保護者対応は、その場の言葉選びではなく、園として先に決めておくことでほとんど決まります。決めておくのは4つ。①誰が伝えるか(担任か、責任者も同席か)②相手の子の名前を伝えるか(園として統一する)③どこまでを事実として話すか(見た・聞いたことだけ)④どの様式に、どこまで記録するか。この4つが決まっていれば、当日は「手当て → 確認 → お伝え → 記録」の順に流すだけになります。
そして、いちばん大事なことを先に。かみつきは、担任の見落としでも、保護者のしつけの問題でもありません。言葉がまだ十分に出ない時期の子が、伝えたい気持ちを体で出してしまう——発達の過程でどの園にも起きることです。だから園は「起きないようにする」だけでなく、「起きたときにきちんと向き合える形」を持っておく。ここを整えるのが事務側の仕事になります。
まず、何が起きているのか|かみつきの対応が難しい3つの理由
伝え方に迷うのは、あなたの説明が下手だからではありません。この場面には、構造的にややこしい要素が3つ同時に入っています。
- 「誰にでも起きること」と「うちの子が傷を負った」がぶつかる:園から見れば発達の一場面でも、保護者から見れば、我が子の体に跡がついて帰ってきた出来事です。前者だけを説明すると、どうしても「軽く扱われた」と感じられてしまいます。
- 相手のいる出来事である:かんだ側の子にも保護者がいます。どちらの家庭にも配慮が要るぶん、話せる範囲が狭くなり、言葉に詰まります。
- その場に居合わせたのが自分とは限らない:報告を受けて伝える立場だと、事実の細部があいまいなまま説明することになりがちです。ここであいまいなまま話すと、あとで食い違いが出ます。
だからこそ、当日の判断に頼らない形にしておきたいのです。その場で決めることを減らすほど、対応は落ち着きます。
なお、かみつき・ひっかきの多くは軽いすり傷・内出血で済みますが、深い傷・出血が続く・目や顔まわり・腫れが引かないといった場合は、受診の判断を園として持つ必要があります。あわせて、園で起きたけがのうち 治療に要する期間が30日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故等にあたるものは、自治体を通じて国へ報告する仕組みがあります(こども家庭庁が所管。報告の様式や提出先は自治体ごとに案内が出ています)。かみつきでここに該当することはまれですが、「どこから園長・自治体に上げるか」の線引きは、事務側で一度確認しておくと迷いません。
手順を小さく分けます|当日の4ステップ

1. 手当て|まず傷、そして「かんだ側の子」にも目を配る
けがの手当てが最優先なのは言うまでもありません。冷やす、洗う、必要なら受診する。ここは保育の側の判断です。
事務側として押さえておきたいのは、手当ての内容そのものが、あとで保護者に伝える材料になるということ。「すぐに冷やしました」「10分ほど様子を見て、腫れは引きました」——この一言があるだけで、保護者の受け取り方は大きく変わります。何をしたかを、時刻とセットで残してもらいましょう。
そして、かんだ側の子のフォローも同じ日のうちに。その子が「悪い子」として扱われないことは、園の姿勢として大事なところです。
2. 確認|お迎えまでに、事実をそろえる
保護者に話す前に、園の中で事実を1本にそろえます。そろえるのは次の5点です。
- いつ:何時ごろの出来事か(「午前中」ではなく「10時20分ごろ」まで)
- どこで:保育室のどのあたりか、園庭か
- どんな場面で:おもちゃの取り合い、順番待ち、狭い場所で体が触れた など
- どうなったか:傷の状態と、その後の手当て・様子
- 職員はどこにいたか:これを避けると、あとで必ず聞かれます
ここで居合わせた職員に確認するとき、「なんで見ていなかったの」と聞かないでください。責める聞き方をすると、次から報告が細くなります。「そのとき何が見えていましたか」と聞くだけで、必要な事実は出てきます。
3. お伝え|順番は「事実 → 園としてのお詫び → これから」
お迎えのとき、担任や責任者から直接伝えます。連絡帳やアプリだけで済ませない場面です。順番はこうです。
- 事実を先に:「10時20分ごろ、ブロックの取り合いのときに、お友だちにかまれてしまいました。左腕に歯型がついています」
- 手当てとその後:「すぐに冷やして、11時に見たときは腫れが引いていました。その後は普段どおり遊んでいます」
- 園としてのお詫び:「お預かりしている間のことです。防げませんでした、申し訳ありません」
- これから:「この時間帯は物の取り合いが起きやすいので、おもちゃの数と職員の立ち位置を見直します」
謝るのは「見ていなかったこと」ではなく、「園でけがをさせてしまったこと」です。ここを混同すると、担任個人の落ち度の話になってしまいます。園として預かっている間の出来事、という主語で話しましょう。
そして、発達の説明を最初に持ってこないこと。「この時期はよくあることで」から入ると、どんなに正しくても言い訳に聞こえます。事実とお詫びを先に置いて、保護者が落ち着いてから、必要なら「言葉が出はじめる時期に起きやすいこと」を添える。順番だけの違いですが、伝わり方はまったく変わります。
4. 記録|その日のうちに、様式に残す
伝えて終わりにせず、記録に落とします。項目は後述しますが、書くのはその日のうち。翌日には、時刻も言葉づかいもぼやけます。
そのまま使える文例
園の言葉づかいに合わせて、入れ替えて使ってください。
① かまれた側の保護者へ(お迎え時に口頭で)
お迎えありがとうございます。今日、お伝えしたいことがあります。
午前10時20分ごろ、保育室でブロックの取り合いになったときに、お友だちに左腕をかまれてしまいました。歯型がついていて、少し赤くなっています。すぐに流水で洗って冷やしまして、11時に見たときには腫れは引いていました。その後は、給食もいつもどおり食べて、機嫌よく過ごしています。
お預かりしている時間のことですので、防げず申し訳ありませんでした。
この時間帯はおもちゃの取り合いが起きやすいので、おもちゃの数と、職員の立ち位置を明日から見直します。おうちで痛がるようでしたら、遠慮なくご連絡ください。
② かんだ側の保護者へ(お迎え時に口頭で)
今日のことをひとつお伝えしますね。
午前中、ブロックで遊んでいるときに、お友だちとおもちゃが重なってしまって、◯◯ちゃんがかんでしまう場面がありました。相手のお子さんはすぐに手当てをして、その後は元気に過ごしています。
この時期は、言葉より先に体が出てしまうことがあって、◯◯ちゃんが悪いということではありません。園としては、取り合いになりにくい遊びの分け方を工夫していきますね。
おうちでも叱らなくて大丈夫です。もし気になることがあれば、いつでもお声がけください。
③ 相手の子の名前を聞かれたとき
申し訳ありません。園では、どちらのお子さんについても、お名前をお伝えしない決まりにしています。ご心配な気持ちはよくわかります。
そのうえで、何があったのかと、園がこれからどうするかは、お話しできる範囲ですべてお伝えします。ご納得いただけない点があれば、園長からあらためてご説明します。
④ 繰り返し起きているとき(同じ子が続けてかまれている)
続けてこういうことがあって、ご心配をおかけしています。
園でも、いつ・どんな場面で起きているかを記録して見直しています。今のところ、朝の遊びはじめと、午睡前の時間に集中していました。この2つの時間帯は、遊びの場所を分けて、職員を1名多く配置します。
2週間ほど様子を見て、あらためてご報告します。それでも続くようでしたら、進め方を園長とも相談して考えます。
名前を伝えるかどうかは、園によって方針が分かれるところです。大事なのは、どちらに決めるかより、園として統一されていること。職員によって答えが違うと、そこから不信が生まれます。入園時の説明や重要事項説明書の見直しのタイミングで、園の方針として文書に書いておくと、その場で説明しやすくなります。
記録に残しておきたい項目
かみつきは「けがの記録」であると同時に、繰り返しを減らすためのデータでもあります。次の項目がそろっていると、あとで見返したときに手がかりになります。
- 日付・時刻(「午前中」ではなく時刻で)
- 場所(保育室のどのあたり・園庭・廊下)
- 場面(取り合い/順番待ち/狭い場所/眠い時間 など)
- どちらの子か(園内の記録には両方書く。保護者に渡す控えには相手の名前を書かない)
- 傷の状態(部位・大きさ・出血や腫れの有無)
- 手当ての内容と時刻、その後の様子を見た時刻
- 保護者へ伝えた相手・時刻・伝えた内容(両家庭ぶん)
- 職員の位置と人数(責めるためではなく、配置の見直しのため)
- 園として次にすること
様式は、園ですでに使っている事故・ヒヤリハットの記録にそろえるのがいちばん楽です。新しい紙を増やすと、書かれなくなります。詳しくは事故・ヒヤリハットの記録、責めずに次へつなげる残し方に整理しています。
月に一度、時刻と場面だけ並べて眺めてみてください。「10時台の保育室」「午睡前」に固まっているといった傾向が、たいてい見えてきます。傾向が見えれば、打つ手は保育の工夫に変わります。責任の話が、環境の話になる。ここまで来ると、園の空気がずいぶん軽くなります。
確認チェックリスト
全部そろえるのは大変です。最低ラインは、①その日のうちに口頭で伝える②時刻と場面を記録する③名前の扱いを園で統一しておく、の3点。ほかは落ち着いたときに整えれば十分です。
- 【最低ライン】その日のお迎え時に、口頭で伝えたか(連絡帳だけで終えていないか)
- 【最低ライン】いつ・どこで・どんな場面かを、時刻つきで記録したか
- 【最低ライン】相手の名前を伝えるかどうか、園として決まっているか
- 伝える順番が「事実 → お詫び → これから」になっているか
- 発達の説明を、いちばん最初に持ってきていないか
- 手当ての内容とその後の様子を、時刻とセットで伝えたか
- かんだ側の保護者にも、その日のうちに伝えたか
- かんだ側の子が「悪い子」として扱われていないか
- 受診が必要な傷の目安と、園長に上げる線引きが決まっているか
- 記録が、既存の事故・ヒヤリハット様式にそろっているか
- 月に一度、時刻と場面の傾向を見直しているか
なお、受診の要否や自治体への報告が必要かどうかの判断は、傷の程度や自治体の通知によって変わります。ここで整理しているのは事務としての段取りであって、医学的な判断ではありません。個別の判断は、園長・主任と嘱託医、自治体の案内に沿って決めてください。保護者から強いお申し出が続く場合は、園内の苦情解決の仕組みにつないで、受付担当・第三者委員の枠組みで記録に残すほうが、担任ひとりが抱えずに済みます。

かみつきの跡を見つけた日は、お迎えの時間が近づくほど気持ちが重くなります。伝えなければいけないのに、伝えたら悲しませてしまう。その板挟みを、園の誰かが毎回引き受けています。
でも、その重さは、子どもの体についた小さな跡をちゃんと見つけて、ちゃんと向き合おうとしているから生まれるものです。見過ごしていれば、重くなりようがありません。気が重いこと自体が、園がていねいに預かっている証拠です。
明日から全部を変えなくて大丈夫です。まずは「名前を伝えるかどうか」だけ、園で言葉をそろえてみてください。それだけで、次に跡を見つけた日の足取りは、少し軽くなります。
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