朝の保育園の事務室で、近隣の方からの電話を受けながら、窓の外の門前に停まった車に目をやっている事務担当者

保育園の送迎の駐車・駐輪|近隣の苦情への対応と保護者へのお願い

朝の8時すぎ。登園のピークで玄関がいちばんにぎやかな時間に、事務室の電話が鳴ります。

「すみません、うちの家の前にまた車が停まってるんですけど」

受話器の向こうの声は、怒鳴っているわけではありません。でも、静かに困っているのが伝わってくる。園の車ではないこともわかっている。だから余計に、どう答えていいか迷いますよね。

「保護者の方に伝えます」と言うしかない。でも同じことを前にも言った気がする。伝えたはずなのに、また停まっている。園が悪いわけでもなく、保護者が悪意でやっているわけでもなく、それでも毎朝、誰かが困っている。この板挟みは、事務の仕事の中でもとくにしんどい部類だと思います。

今日は、この送迎まわりの駐車・駐輪を、「園としてできること」の順番に並べていきましょう。

結論:送迎の駐車・駐輪は、①数える → ②近隣に返す → ③保護者に伝えるの順で動くとこじれにくくなります。①数える=どの時間帯に、どこに、何台停まっているかを3日間だけ記録する。②近隣に返す=苦情はその日のうちに受け止め、「園がこれから何をするか」を短く伝える。③保護者に伝える=「駐車禁止」だけを貼るのではなく、代わりにどこへ置けばいいかをセットで示す。この順番を逆にして、事実をつかまないまま「お願い」の紙を貼っても、なかなか変わりません。
送迎の駐車・駐輪への対応を、聞く・数える・伝えるの三つの順に並べて示した図
苦情が来たら、まず聞く。次に自分の目で数える。それから伝える。この順番だと、園の話に説得力が出ます。

何が起きているか

送迎の駐車・駐輪の問題は、誰かのマナーが悪いから起きている、という単純な話ではないことがほとんどです。園の側から見ると、たいてい次のような条件が重なっています。

そして、苦情を言ってくる近隣の方も、園を困らせたくて連絡してきているわけではありません。毎日のことだから、我慢の総量が積み上がっているというのが実際のところです。車庫から出られない、洗濯物の前で立ち話をされる、自転車が門の前をふさぐ、エンジンをかけたままの音が続く。1回なら気にならないことでも、毎朝続くと苦しくなります。

もうひとつ、園として意識しておきたいのが役割の限界です。道路上の駐車の取り締まりは警察の仕事で、園には権限がありません。園にできるのは、保護者へのお願いと、園の敷地・導線の工夫まで。ここを混同して「園がなんとかします」と全部を引き受けると、できない約束になってしまいます。

とはいえ「園にはどうにもできません」と突き放すのも違います。できることの範囲をはっきりさせたうえで、その範囲の中で本気で動く。そう伝えられると、近隣の方の受け取り方はかなり変わります。

手順1:3日だけ、自分の目で数える

いちばん最初にやりたいのは、掲示物づくりではなく実態の把握です。理由は2つあります。

ひとつは、近隣の方への説明に事実が要るから。「保護者に伝えました」だけでは、次に停まった瞬間に信頼が切れます。「朝は8時10分から8時40分に集中していて、多い日で4台でした。この時間帯を分散させたいと思っています」と言えると、話がまったく違う方向に進みます。

もうひとつは、打ち手が変わるから。台数が問題なのか、時間帯が問題なのか、置き場所が問題なのか。原因によって、次にやることが変わります。

記録は、紙1枚で十分です。

日付時間帯場所台数(車/自転車)気づいたこと
◯/◯(月)8:00-8:30門の東側の路上車2台・自転車3台8:15が最多
◯/◯(月)8:30-9:00門の東側の路上車4台◯◯さん宅の前に2台
◯/◯(火・雨)8:00-8:30門前・向かいの空き地車6台雨の日は車が増える

見る時間は、朝と夕方で15分ずつでも構いません。事務の手が空かないなら、その時間に外に出る用事をひとつ作る(掲示物を出す、門の掃き掃除をする)と続けやすくなります。

このとき、車のナンバーや保護者の名前は書かないようにします。目的は「誰が停めたか」を特定することではなく、「いつ・どこに・どれくらい」の傾向をつかむことです。個人を名指しする記録は、あとで扱いに困る書類になります。

3日分たまれば、もう十分です。たいてい、思っていたより時間帯が狭く、思っていたより台数が少ないことがわかります。問題の輪郭が小さくなると、打ち手も現実的なサイズになります。

手順2:近隣への一次対応は、その日のうちに

苦情の電話を受けたときにやることは、実はそれほど多くありません。その場で解決策を出さなくていいというのを、まず知っておいてください。

電話を受けたときの順番

  1. 最後まで聞く。途中で「それは園ではなく保護者の方の車で」と説明を挟まない。まず全部聞きます
  2. 困っている事実に対して詫びる。園の落ち度を認める謝罪ではなく、「ご迷惑をおかけしていて申し訳ありません」という、状況へのお詫びです
  3. 具体を確認する。いつごろか、どのあたりか、どのくらい続いているか。ここで手順1の記録が生きます
  4. 園がこれからすることを、ひとつだけ伝える。「今週中に保護者全体にお知らせを出します」「明日の朝、私が門の前に立って見てみます」など、必ず実行できることだけを言います
  5. 名前と連絡先を聞けたら聞く。無理には聞きません。教えてもらえたら、あとから経過を伝えられます
  6. 園長に報告し、記録に残す

受け答えの言い方の例

「お知らせいただき、ありがとうございます。朝のお忙しい時間にご迷惑をおかけしていて、申し訳ありません。
差し支えなければ、何時ごろ、どのあたりに停まっていたか教えていただけますか。……ありがとうございます。
実は今週、私どもでも送迎の時間帯を見ていまして、8時台に集中していることがわかってきたところです。
今週中に保護者全体へお願いの文書を出します。あわせて、朝の様子を職員が直接確認するようにします。
それでも変わらないようでしたら、お手数ですがまたお知らせいただけますか。園長の◯◯、事務の◯◯が承ります。」

大切なのは、「保護者に伝えます」で終わらせないことです。この一言だけだと、近隣の方から見れば「園は何もしないのと同じ」に見えてしまいます。園が実際に動く姿——文書を出す、朝に立つ、置き場所を作る——が見えると、同じ状況でも受け取り方が変わります。

直接来訪されたときは

門のところで立ったまま話し込むと、登園中の保護者や子どもの目に入り、お互いに気まずくなります。事務室や相談スペースに座っていただくか、それが難しければ「10分後にこちらからお伺いします」と伝えて、落ち着いた場所で聞くようにします。

強い言い方をされて怖いと感じるときは、ひとりで抱えず、必ず園長か主任に同席してもらいます。「担当がひとりで受ける」形にしないのは、対応する人を守るためでもあります。園として線を引く必要がある場面の考え方は、保護者の苦情、最初の一次対応で慌てないための順番にも整理しています。

記録は、園の苦情記録と同じ場所に

近隣の方からの声は、園を利用している保護者からの苦情とは性格が違います。ただ、記録の残し方はそろえておいたほうが探しやすいです。受付日時/受けた人/内容/園の対応/その後、の5項目があれば十分。書式は、園にすでにある苦情受付票を流用して構いません(詳しくは保育園の苦情解決の仕組み|受付担当・第三者委員と記録の整え方)。

この記録が積み上がっていると、園として「同じ内容が続いている」「対応後に減った」が見えるようになります。監査や自治体からの問い合わせのときにも、経過をそのまま示せます。

手順3:保護者には「禁止」ではなく「代わりの置き場」を伝える

ここがいちばん、書き方で結果が変わるところです。

「路上駐車はやめてください」だけを貼っても、朝の保護者の状況は変わりません。車で来る必要があって、停める場所がないという条件がそのままだからです。伝えるべきは、禁止の宣言ではなく、どこに、どうやって置けばいいのかという具体です。

伝える文には、次の4つを入れます。

  1. なぜお願いするのか(近所の方が困っていること、子どもの通り道であること)
  2. どこに置けばいいのか(園の駐車枠、近隣のコインパーキング、少し離れた場所からの徒歩ルート)
  3. どうすれば混まないか(時間の分散、雨の日の動き方)
  4. 園も一緒にやること(職員が立つ、枠を増やす、時間をずらせる手続きを受ける)

4つ目があるかどうかで、読んだときの印象がずいぶん変わります。「園も動くから、一緒にお願いします」という形にしたいところです。

掲示・おたよりの文例

送迎時の駐車・駐輪について、お願い

いつも登園・降園にご協力いただき、ありがとうございます。

最近、園の周りの道路や、近隣のお宅の前に車を停めた状態でのお送り・お迎えが増えており、ご近所の方からお声をいただいています。門の前は子どもたちが歩く道でもあり、朝夕は特に人の行き来が多い場所です。

お忙しい時間であることは、私たちもよくわかっています。そのうえで、次のご協力をお願いできますと助かります。

車でお越しの方
・園の駐車スペース(◯台・園庭側)をご利用ください。空いていない場合は、恐れ入りますが◯◯パーキング(園から徒歩◯分・◯◯の向かい)をご利用ください
・道路や、近隣のお宅・お店の前への駐車はご遠慮ください
・駐車スペース内では、エンジンを止めてお降りください

自転車でお越しの方
・駐輪は◯◯側の白線の内側にお願いします。歩道側にはみ出すと、通る方が車道に出ることになってしまいます

混み合う時間について
・朝は8時10分〜8時40分ごろが最も混み合います。前後に10分ずらしていただけると、ずいぶん楽になります
・雨の日は特に混み合います。少し早めのご出発をおすすめします

園でも、朝の時間帯に職員が門の前に立ち、ご案内をいたします。駐車スペースの使い方についても、園内で見直しを進めています。

ご不便をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。

◯◯保育園

書くときに気をつけたいのは、特定の家庭を思い浮かべさせない書き方にすることです。「一部の方が」「マナーの悪い方が」といった書き方は、全体に配る文書には向きません。読んだ人が「自分が疑われている」と感じると、内容よりも先に感情が動いてしまいます。

文面のトーンで迷ったら、保護者へのおたより、伝わる文面の整え方もあわせてどうぞ。

個別に伝えるとき

繰り返し同じ場所に停まっていて、どの家庭かがわかっている場合。全体へのお知らせだけで変わらないなら、個別に伝えることになります。

このときは、担任からの声かけではなく、園長または事務からにするのが無難です。担任と保護者の関係は、日々の子どもの話のための関係です。そこに注意の役割を持ち込むと、担任が動きにくくなります。

伝え方も、責める形にはしません。

「朝のお時間、いつもお忙しい中ありがとうございます。ひとつご相談なのですが、門の東側にお停めいただくことがあるかと思います。あちらのお宅から、車の出入りがしにくいというお話をいただいていまして。園の枠が空いていないときは、◯◯パーキングをご案内しているのですが、少し遠くて申し訳ありません。何かご事情があれば、お聞かせいただけますか。」

最後の「ご事情があれば」は、形式的な言葉ではありません。きょうだいの送りがある、下の子を抱えている、車を降りられない事情がある——聞いてみると、園の側で調整できることが見つかることがあります。

手順4:園の側で変えられる、小さな工夫

保護者へのお願いだけに頼らず、園の導線そのものを少しいじると、効果が長続きします。全部やる必要はありません。園の敷地と地域の事情に合うものを、ひとつかふたつです。

こうした運用を決めたら、入園のしおりや重要事項説明書にも反映しておきます。入園のときに一度伝えておくと、あとから個別に注意する場面が減ります(重要事項説明書と入園のしおりを見直すときの確認項目)。

なお、道路上の駐車そのものについては、園が判断できる範囲を超えます。危険を感じる状況が続くときは、所轄の警察署や自治体の道路担当に「相談」として一度話をしておくと、園としてどこまで対応すべきかの整理がつきます。近隣の方が直接通報されることもありますが、それは近隣の方の判断です。園が保護者との間に入って止めるものではありません。

手順5:一度で終わらせず、少しだけ続ける

送迎の駐車・駐輪は、一度お願いすれば解決する、という種類の問題ではありません。新しい家庭が入園するたび、季節が変わるたび、また少しずつ戻ります。だからこそ、続けやすい形にしておくことが大事です。

続けるための仕掛けは、3つで十分です。

  1. 年度はじめのおたよりに、毎年入れる(4月の定型文にしてしまう)
  2. 入園説明会・入園時の資料に、駐車の案内を入れる(最初に伝わっていると強い)
  3. 苦情の記録を年に一度見返す(件数が減っていれば、それが職員への何よりの報告になります)

そして、近隣の方に経過を伝えるのを忘れないようにします。お知らせを出した、朝に立った、その結果どうだったか。ひとことでいいので伝わると、「あの園はちゃんと動く」という関係ができます。苦情を言った側は、そのあと園がどうしたかを知らないまま過ごしていることが多いのです。

落ち着いたころに、園だよりを1部持って「先日はありがとうございました。その後いかがでしょうか」と声をかけにいく。この5分が、次の1年をずいぶん楽にしてくれます。

明日やること

全部を一度に整えなくて大丈夫です。明日は、次のどれかひとつで十分です。

確認チェックリスト

実態をつかむ

近隣への対応

保護者への案内

続ける仕組み

朝の保育園の門の前で、自転車を降りた保護者と子ども、案内に立つ職員が笑顔で挨拶を交わしている場面

送迎の駐車の問題は、園がどれだけ丁寧にやっても、ゼロにはなりにくいものです。相手は道路で、相手は天気で、相手は毎朝の限られた時間だからです。だから、うまくいかない日があっても、それは園の努力が足りないからではありません。

それでも、電話を受けて、話を聞いて、朝に外へ出て数えて、おたよりの文面を何度も直す。その積み重ねは、確かに何かを変えています。近所の方が「あの園は話を聞いてくれる」と思ってくれること。保護者が「園も一緒に考えてくれている」と感じること。それは掲示物1枚では作れない、時間をかけた人だけが作れるものです。

明日は、門の前に15分立つところからで十分です。数えているというだけで、園はもう前に進んでいます。

よければ、こちらも

保護者・近隣とのやりとりを、もう少し楽にしたいときに。

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