
保育園の実習生受け入れ|事前準備と当日の事務、必要書類の整え方
八月の午後、養成校から封筒が届きます。中身は実習依頼の一式。日程の候補、実習の種類、学生の名前、そして「ご承諾いただける場合は同封の書類にご記入のうえ、◯月◯日までにご返送ください」の一文。
園長に見せると「うん、受けよう」。それで話は終わって、封筒は事務の机の上に残ります。受け入れることは決まったけれど、何をどの順で用意するのかは、誰も教えてくれない。前回の記録を探しても、去年の担当者が別の書き方をしていて、そのまま真似していいのか分からない。
そうやって、依頼の封筒を横に置いたまま数日が過ぎてしまう——というのは、園の事務ではとてもよくある光景です。実習の受け入れは毎年あるのに、年に数回しか触らないから手順が体に残らない仕事の代表格だからです。
結論:受け入れの事務は、先に3点だけ固めれば、あとは順番に流れます。①誓約書(守秘義務)②健康の確認 ③保険の加入。この3つを実習が始まる前にそろえて、あとは「当日の段取り」と「終わったあとに返す書類」を押さえるだけです。逆に言えば、この3点を後回しにすると、初日の朝に慌てることになります。
そしてもうひとつ。実習生を受け入れる園は、それだけで保育の担い手を育てている側にいます。手間はたしかにかかりますが、これは園の余計な仕事ではなく、業界全体を回している仕事です。
いま園で起きていること|受け入れの事務が慌ただしくなる3つの理由
段取りが悪いわけではありません。この仕事は、構造的にバタつきやすくできています。
- 窓口が事務なのに、決めるのは事務ではない:日程を受けるのも書類を返すのも事務ですが、「どのクラスに入ってもらうか」「担当は誰か」を決めるのは園長や主任です。ここの往復に日数がかかり、返送の締切だけが近づいてきます。
- 年に数回しか来ないので、手順が定着しない:保育実習は夏と冬に集中しがちで、そのあいだに中学校の職場体験やボランティアの依頼が挟まります。種類が違えば必要書類も違うのに、どれも「実習生の受け入れ」という同じ言葉で呼ばれるため、前回の記憶がそのまま使えません。
- 確認先が園の外にある:健康の確認をどこまで求めるか、保険はどれに入っているか。これらの答えは養成校や学校側が持っていて、聞かないと分かりません。こちらが動かないと止まったままになる種類の仕事です。
だから、うまくいっている園がやっていることは、実はひとつだけです。「毎回ゼロから考えない」ための紙を1枚持っている。この記事は、その1枚を作るための材料だと思ってお読みください。
まずここから|受け入れ前にそろえる3点

1. 誓約書(守秘義務)
いちばん先に用意するのがこれです。養成校の様式に含まれていることも多いので、まず届いた一式の中にあるかを確認してください。なければ、園の様式を1枚作っておくと毎回使えます。
盛り込みたいのは、次のあたりです。
- 実習で知った子ども・保護者・職員の情報を、実習期間中も終わったあとも外に出さないこと
- 園内で見聞きしたことを、SNSやメッセージアプリに書かないこと(園名を出さなくても、です)
- 園内での写真・動画の撮影をしないこと。記録に必要な場合は必ず職員に相談すること
- 保育室にスマートフォンを持ち込まない(園のルールに合わせて書きます)
ここは、実習生を疑って書くものではありません。学生さんは「どこまでがダメなのか」を知らないだけです。「友達に今日あったことを話すのもダメですか」と真剣に聞かれることもあります。だから、禁止事項を並べるより、初日のオリエンテーションで一緒に読み合わせるのがいちばん効きます。園の情報の扱いは個人情報の保管と共有のルールと同じ考え方で、写真の扱いは写真と肖像権の同意ともつながります。
2. 健康の確認
何をどこまで求めるかは、園によって差があるところです。だからこそ、受け入れを決めた段階で園長と決めて、次回のために書き残しておきたい項目でもあります。
- 健康診断の結果:養成校が実習前健診を行い、その結果を添えて送ってくることが多い項目です。届く前提で待っていると来ないことがあるので、依頼を受けた時点で「健康診断の結果はいただけますか」と一度確認しておくと確実です。
- 麻しん・風しんなどの抗体や接種歴:これも養成校側で確認していることが多い項目です。園として控えを預かるのか、確認だけで足りるのかを決めておきます。
- 検便(腸内細菌検査):調理室に入る予定があるかどうかで扱いが変わります。調理に関わるなら園の調理員に準じて求めるのが自然ですし、配膳の手伝いまでなら求めない園もあります。自治体の指導や園の衛生管理の決めごとで分かれるところなので、受け入れを決める段階で確認しておくと、直前で慌てません。給食まわりの記録の考え方は給食・アレルギー対応の記録が参考になります。
職員の健診とは別の話ですが、書類の置き場所と保管の考え方は職員に準じると整理しやすいです(職員健康診断とストレスチェック)。
3. 保険の加入
実習中に、実習生自身がけがをしたとき。実習生の関わったところで、子どもがけがをしたとき。 この2つに備えるのが保険です。ここは受け入れ側が確認しておかないと、いざというときに「どこに連絡すればいいのか」が分かりません。
- 養成校からの保育実習:学生教育研究災害傷害保険(学研災)と、その付帯賠償責任保険に、養成校を通じて加入しているのが一般的です。加入証明や、事故時の連絡先(実習担当の教員名と電話番号)をあわせて確認しておきます。
- ボランティア:養成校が間に入らないぶん、抜けやすいところです。社会福祉協議会のボランティア活動保険に加入してもらう、あるいは園が加入している保険の対象範囲を確認する、といった整理が必要になります。
- 中学校の職場体験・高校のインターンシップ:学校側で用意していることがほとんどですが、依頼書に書かれていないなら聞く。それだけで大丈夫です。
そして、実習中に何かが起きたときの記録は、職員の場合と同じように残します。事故・ヒヤリハットの記録の様式をそのまま使えば十分です。
受け入れが決まってから初日までの段取り
3点がそろったら、あとは順番に片づけていくだけです。依頼を受けてから初日までを、4つのかたまりにしてみます。
① 依頼を受けて、返事をする(受け入れの1〜2か月前)
- 日程が園の行事とぶつかっていないかを年間予定と突き合わせる。運動会や発表会の直前は、担任が実習生を見る余裕を持ちにくい時期です。
- 同じ週に何人まで受けるかの目安を決める。1クラスに2人以上入ると、子どもも実習生も落ち着きません。
- 受け入れるクラスと、実習担当の職員を決める。
- 承諾書を返送する。締切は依頼書に書かれています。ここだけは先に手帳に書き写してください。
② 実習生と連絡を取る(2〜3週間前)
多くの養成校では、学生本人から園に電話をして事前訪問の約束を取る決まりになっています。その電話は、たいてい事務が受けます。学生さんは緊張していて、名乗るだけで精一杯ということもあります。「◯◯保育園です、実習のご連絡ですね」と先に言ってあげると、そこから先がスムーズです。
事前オリエンテーションで伝えることを、1枚の紙にしておくと毎回使えます。
- 初日の集合時刻・場所・入る入口(通用口か正門か)
- 持ち物(上履き、エプロン、着替え、水筒、実習日誌、印鑑)
- 服装(動きやすい服、髪をまとめる、アクセサリーは外す、爪を短く)
- 給食の有無と費用の扱い(園によって無償・実費のどちらもあります。園のルールを確認して伝えます)
- 昼食・休憩をとる場所、荷物を置く場所、更衣の場所
- 通勤方法(自転車・車で来る場合の駐輪・駐車の可否)
- 体調が悪いときの連絡先と、連絡してよい時間帯
③ 園の中を整える(1週間前〜前日)
- 職員への周知:いつ・誰が・どのクラスに入るかを、職員会議か連絡ノートで共有します。当日になって「聞いてない」が起きると、いちばん困るのは実習生です。
- 保護者へのお知らせ:おたよりや玄関の掲示で、期間と人数をお伝えします。「◯月◯日(月)〜◯月◯日(金)、保育士をめざす学生◯名が実習に来ます。子どもたちと一緒に過ごしますので、よろしくお願いいたします」くらいで十分です。書き方の考え方はおたより文例の基本にまとめています。
- 給食の食数連絡:厨房に人数と期間を伝えます。これがいちばん忘れられます。
- 名札の用意:子どもが呼びやすいひらがなの名札があると、初日の空気がやわらぎます。
- 人数の扱いの確認:実習生は、配置基準で数える保育士の人数には含めません。あくまで職員の目が届く体制のうえで受け入れるという前提を、シフトを組む段階で共有しておきます(配置基準を満たすシフトの組み方)。
④ 初日の朝(当日)
- 受付をして、出勤簿に記入してもらう(様式は養成校指定のことが多い)
- 園内を案内する(保育室、トイレ、更衣室、休憩場所、避難経路)
- オリエンテーションで、誓約書を一緒に読み合わせて署名してもらう
- 緊急時の動き方を伝える。避難訓練の記録や、感染症・嘔吐処理の手順で、実習生に何をしてもらうか(あるいは何もせず離れてもらうか)を最初に決めておくと、当日迷いません。
見落としやすいのは、終わったあと
実習が終わると、園の空気は「無事に終わってよかった」に切り替わります。事務の仕事が残るのは、そこからです。
返す書類は、たいてい3種類あります。そしてそれぞれ締切が違うのが厄介なところです。
| 返すもの | 誰が書くか | よくある形 |
|---|---|---|
| 出勤簿・実習時間の証明 | 事務・園長 | 最終日に押印して実習生に渡す |
| 実習日誌 | 実習担当の職員 | 日々コメントを書き、最終日までに返す |
| 実習評価票 | 園長・実習担当 | 後日、園から養成校へ直接郵送の指定が多い |
いちばん遅れやすいのが評価票です。実習生の手を離れているぶん、催促してくれる人がいないからです。実習が終わった日に、返送の期限を担当者の予定表に書き込む。これだけで、養成校からの問い合わせがなくなります。
そして最後に、次回のために記録を残します。園に残しておきたいのは、この程度で十分です。
- 受け入れた期間・養成校名・人数・入ったクラス
- 使った書類の様式(誓約書、オリエンテーションの1枚)
- 「次はここを変えよう」と思ったこと(1〜2行のメモ)
受け入れの記録は、指導監査で必ず見られるという種類のものではありません。ただ、園として外部の人を受け入れた事実と、そのときどう安全を確保したかが分かる形になっていると、聞かれたときに落ち着いて説明できます。保管の年限は園の文書保存の一覧に合わせて決めておきましょう。
種類が違えば、必要なものも違う
「実習生の受け入れ」とひとくくりに呼びますが、中身はけっこう違います。依頼が来たとき、まずどれなのかを見分けると、必要な準備が絞れます。
- 保育実習(指定保育士養成施設の学生):養成校が窓口。書類の様式も、保険も、評価票も養成校側が用意します。園がゼロから作るものは少ないぶん、届いた一式の中身を確認する作業が中心になります。
- 幼稚園教育実習・看護学生の実習など:流れは保育実習と同じですが、目的と見てほしい場面が違います。担当を決めるときに、どのクラス・どの場面を見てもらうかを園長と相談しておきます。
- 中学校の職場体験・高校のインターンシップ:期間が2〜5日と短く、評価票がないことも多いです。そのぶん、安全面の配慮を厚くします。子どもと二人きりにしない、抱っこや水遊びの場面での立ち位置を決めておく、といった具体的な線引きが要ります。
- ボランティア(地域の方、卒園児の保護者、学生の自主的な参加):いちばん決まりごとが少なく、いちばん園の判断が要ります。誓約書・健康の確認・保険の3点は、むしろこの場合こそ園から用意する必要があります。「よく知っている人だから」で省略すると、あとで困るのは受け入れた側です。
見分けがつきにくいときは、依頼書の中に「養成校の担当教員名」があるかどうかを見てください。あれば養成校が窓口として動いてくれます。なければ、園が主導する受け入れです。
チェックリスト(コピーして使えます)
実習の受け入れが決まったら、上から順に潰していくだけで一通りそろいます。一度に全部やらなくて大丈夫です。
受け入れを決めるとき
- 【まずここから】承諾書の返送締切を手帳・予定表に書き写したか
- 日程が園の行事とぶつかっていないか、年間予定と突き合わせたか
- 受け入れるクラスと実習担当の職員を決めたか
- 同じ週に受ける人数の上限を決めたか
- 保育実習・職場体験・ボランティアのどれなのかを見分けたか
始まる前にそろえる3点
- 【まずここから】誓約書(守秘義務・SNS・写真撮影)の様式を用意したか
- 健康診断の結果を受け取れるか、養成校に確認したか
- 調理室に入る予定があるか、検便の扱いを園長と確認したか
- 保険の加入と、事故時の連絡先(担当教員名・電話)を確認したか
初日までの準備
- 事前オリエンテーションで伝えることを1枚の紙にまとめたか
- 給食の有無と費用の扱いを、園のルールで確認して伝えたか
- 職員に、期間・人数・入るクラスを周知したか
- 保護者に、期間と人数をおたよりか掲示でお知らせしたか
- 厨房に給食の食数を伝えたか
- 実習生は配置基準の人数に含めないことを、シフト担当と共有したか
- 名札・更衣場所・荷物置き場を用意したか
終わったあと
- 出勤簿に押印して渡したか
- 実習日誌を最終日までに返したか
- 評価票の返送期限を予定表に書き込んだか
- 受け入れの記録(期間・養成校・人数・気づき)を1枚残したか

実習の受け入れは、園にとって直接お金になる仕事ではありません。むしろ、忙しい時期に手間が増えます。書類をそろえて、職員に頭を下げて日程を調整して、最後は評価票を書いて郵送する。誰かに褒められるわけでもない仕事です。
けれど、実習を終えた学生さんが最終日に「この園みたいなところで働きたいです」と言って帰っていくことがあります。それは、担任の保育がよかっただけではありません。初日の朝に迷わず入口にたどり着けたこと、名札が用意されていたこと、休憩場所があったこと——その一つひとつが、「ここは人を大事にする園だ」という感触になっています。それを準備したのは、事務室のあなたです。
明日、まずやることをひとつだけ挙げるなら、去年の実習の書類を1か所に集めてみることです。誓約書の様式が1枚出てくるだけで、次の受け入れはずいぶん軽くなります。毎年ゼロから思い出す仕事を、来年のあなたに渡さなくて済みます。
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